〔第4回〕まちづくりは編集力~まちの”観せ方”と”魅せ方”

平成28年度(株)まちづくり熊谷情報発信事業

 〔第4回〕

まちづくりは編集力~まちの”観せ方”と”魅せ方” 

帝京大学経済学部観光経営学科 大下 茂

  ちょっと下から写真を撮ってもらうと足が長く映ります。ちょっと斜に構えると細く映ります。同じものでも、撮り方ひとつで違って見えるのではないでしょうか。
これは地域をプロモートする時にも使える手法なのです。まちづくりにおいては、地域での『編集力』をもつことで、まったく違った輝きをみせます。要は、伝えたいマーケットに対して“観せ方”と“魅せ方”にひと手間加えることです。

(1)集客・観光を巡る競合化時代に求められる「企画力」と「編集力」

人口増が期待できない時代において地域の活力を維持するために、地域を訪れる人々の消費活動を誘発する取り組みが全国で展開されていることは、既にお話した通りです。この集客・観光を巡る競合社会の中で、他地域よりも先手を打ち優位に立つためには、地域の中で眠っている資源を見出すだけでなく、それを「企画すること」と「編集すること」によって、魅力の付加価値化を目指す必要があるのです。

資源発見は料理で例えると、市場にいって食材をみてきたに過ぎません。その素材をもとに、和風料理にするか、洋食系、あるいは中華、懐石料理や精進料理等、様々な加工法(商品づくりの手法)を加えることで、提供する料理となるのです。そして何よりも大切なことは、誰に、どんな時に、どのようにして味わってもらうかをイメージして、素材と料理法の最適な組み合わせの中からメニュー化することではないでしょうか。料理でいう「賞味法」をイメージして商品づくりを組み立てることが、観光まちづくりでの「企画力」「編集力」の基本となるのです。

TVの旅番組は大きく様変わりをしました。かつては、名所旧跡や温泉を巡る旅が主流でしたが、最近は、都市地域を巡り「知る人ぞ知る魅力」「知られざる魅力」を紹介する番組が増えてきています。「ふ~ん」で終わってしまいがちなことも、薀蓄(うんちく)を加えることで、「へ~ぇ」へと魅力づけをする「編集力」を加えているのです。「起源・原点」の紹介や、地域の中での生活との関わり等、正面からの姿だけでなく、その背景や人の思いをそこに重ねることで、眠っていた資源が、地域の新しい集客資源となる時代となっているのです。NHKの人気番組『ぶらタモリ』は、その恒例とみてよいのではないでしょうか。

同様に旅に関する雑誌のテーマも様変わりしています。読者層を意識したテーマが次々と企画されています。男性ならば「隠れ家」や「鉄道の一人旅」「カフェやバー」等、女性ならば「瀟洒な食」「ゆったり」「友達とのおしゃべり」等が欠かせない。

雑誌の構成一つをとっても、違いは明白です。男性誌は、ぎっしりと文字や写真を紙面に詰め込んでいますが、女性誌は白い部分が多くビジュアル重視で構成されています。さながら“薀蓄と情報を詰め込む男性誌”vs“多くを語らずイメージを膨らませる女性誌”といった対局の構成としているのは、読者という訴えたいターゲットへの訴求力を意識した構成が企図されているものと推察できます。まさに、「企画力」「編集力」を、雑誌にも垣間みることができるのです。

(2)“魅せ方”を意識した“観せ方”に工夫を

上野駅のJRびゅーでユニークなリーフレットを見つけました。「下田 30COLORS PROJECT」というパンフレットです。下田といえば「黒船」の地。“歴史”に関連するものだけで「下田黒船物語」「まちなかレトロ散策」「下田龍馬伝」といったタイトルのリーフレットが編集されています。

また“食”にしても、「ソウルフードを探せ」「日本一の金目鯛が食べたい」「ロマンチックネオンナイト」というタイトルが・・・。つい、手が伸びてしまうタイトルではないでしょうか。「ソウルフード??」に目を惹かれて内容を見ると、地元の方々がよく行く飲食店の紹介、そして「やっぱり干物!」という落としどころに、「巧い」と心の中で絶賛してしまいました。タイトルに「特産品の干物」と記載されていると手を出さないところを「ソウルフード」という編集を加えているところに、センスを感じたのです。「カメラ女子」「主人公になったつもりで」「雨の日でも遊びた~い」等とつづきます。ターゲットに訴える力~訴求力を高めるタイトルが目白押しの内容です。

oosimo4-1 30 COLORSと命名されているように、30種類のマップ付きのカラフルなリーフレットが作成されているのです(図4-1参照)。つい、すべてを揃えたくなる。これは、「名数法」と「収集法」という伝統的な手法の巧みな組み合せです。「名数法」とは、例えば「日本三名園」「日本八景」「百名山」といったように、まとめて表す時に表現される手法です。「収集法」とは、いろいろなところにあるものを集めて回る手法であり、コレクターが地域回遊して収集する愉しみの一つです。お遍路さんの代表・四国八十八箇所の御朱印帳巡り等は、「名数法」と「収集法」とが組み合わされた地域巡りの代表例といえるのです。

下田の地域の工夫は30の「名数」をタイトルで示しており、またリーフレットは一箇所に置かれていないこと。一種の宝探し気分にな巧みなテクニックを感じました。

どこにでもある地域資源を、「訴求力」を高めた“魅せ方”という「編集力」を加えているのではないでしょうか。

(3)真の魅力は「削ぎ落とすこと」の中にある

先行する地域イメーシをもっている地域は、集客・観光の視点からすると、「知名度」を得ていることの代償として、誘客の顧客層が限定されてしまいがちです。また先行イメージが強すぎると逆に、新しいことに取組むことに対するブレーキがかかることも少なくないでしょう。このような壁に当たった際、「下田 30COLORS PROJECT」の発想は、顧客ターゲットの間口を広げるためには参考となる手法と言えるのではないでしょうか。

しかし一方では、多種多様な資源を表現することで、イメージが分散化・希薄化することも懸念されます。「トンガったイメージ(突出したイメージ)」を打ち出すことの方がよい場合もあります。

地域の「魅せ方」からいえば、どちらが良いかの正解はないのです。まずは、地域の中の資源を隈なく探し出して、それを「どのように魅せる」かについての編集会議を行うことから始め、それらの素材をもとにプロモーションの順位付けをすることが王道的な取組み方であると言えるでしょう。

話は変わりますが、「和食」が世界文化遺産として登録されました。日本文化の多くは、大陸から移入されたものが「島国」という特性の中で、進化と深化が加えられて現在に継承されていると言えます。ではどのように変化して来たのでしょうか。大きく3つの段階での変化を遂げてきたと、筆者は見ています。

日本文化の特徴は、「削ぐ」という行為が加わることで、真髄に近づけようとしていると思われます。王宮料理は盛り合わせること、付け加えることで、ボリューム感を出すのに対して、精進料理や懐石料理は、削ぎ落として食材のもつ魅力を最大限引き出しています。しかし、削ぎ落とすことで、真髄には近づけるものの、一見、地味で満足感に欠けることもある。そこで、器のもつ力や周辺の景色の力を「借りる」という行為へと展開させている。周囲の力を借りることで、料理本来の魅力をさらに引き出しているのではないでしょうか。さらにそこに、季節感を「彩る」といった手を加える。季節の素材に加えて、梅や桜の花びらや、新緑・紅葉の一葉、雪景色といった風情を表現・演出する。日本文化は、「削ぐ」「借りる」「彩る」という手法を加えることで、成熟させてきたとみています。

集客・観光まちづくりにおいても、この手法を援用して取組みたいと思います。これが地域の“観せ方”と“魅せ方”につながるのではないでしょうか。地域の眠っている資源のラインナップを作った上で、アピール力のある“テーマ性”で束ねる。場合によっては、勇気をもって素材の取捨選択をする。その上で想定する誘客ターゲットに訴求できる背景と物語を加えた表現から順位付けを行い、最後に彩りを加えて組み立てるといった手順で、地域プロモーションを実施することが、大きな関心を得て誘客効果を引き出すことにつながるのではないでしょうか。

(4)熊谷の真髄に近づくために

熊谷に何度か寄せていただき、地域を探訪させていただきました。熊谷には様々な魅力の原石を感じることができました。どれもが今後の地域への集客を図る上で、大切にしたい資源でした。取捨選択しづらく、つい盛りたくなるのですが、あえて「削ぐ」ことの行程を経ることによって、『地域の履歴・記憶』『うちわ祭り』『宿場・星川』の3つのテーマが熊谷の原点・根底を成すものとの確信にいたりました。

熊谷の現在の状況や、これからの熊谷のまちづくりに向けての多くの方々の思いをお伺いする機会を得れば得るほど、県北の中心市街地として活況を得ていた頃の賑やかな光景が、一本の大木に重なって見えてきました。頭の中で映像化されたものを表現したものが図4-2です。

熊谷を形づくっている大木の足元にあるものが、先程の『地域の履歴・記憶』『うちわ祭り』『宿場・星川』の3つのテーマであり、その枝葉として形づくられているものとして『農』『染』『商い(賑わい)』『スポーツ』『食』『広域連携』『会所・サロン』という7つのテーマとして集約されるものと考えました(表4-2参照)。

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地域の根底を成すテーマ ①地域の履歴・記憶 中山道の宿、絹関連・染、商業中心地、戦災復興等
②うちわ祭り 意識面の核、疫病対策・集客、作法・しきたり、躍動感等
③宿場・星川 空間的な核、集散往来、市街地内のオアシス等
熊谷の形成に関わるテーマ ④農 麦文化、豊かな食文化、緑の空間等
⑤染 シルク文化、染の文様、星川の存在等
⑥商・賑わい 賑わい拠点・恵比寿講、県北の中核性、地域回遊等
⑦スポーツ ラグビー、競技施設、比企丘陵(サイクリング)、情熱、食等
⑧食 多種多様な食文化、ソウルフード(粉文化)等
⑨広域連携 近代的絹産業、旧中山道、荒川と利根川、大田、世田谷等
⑩会所・サロン まちなかイベント、大学との連携、産業連携等

この10のテーマは相互に関わりを持っていますが、その原点を辿っていくと、地域の根底を成す3つのテーマにつながっていると思います。“あついぞ!熊谷”は、最高気温を記録しただけでなく、その背景には『情熱(passion)』のイメージと重なり、また映像として“祭り”や“スポーツ観戦”にも通じていると感じます。

まちづくりは、地道な活動の継続的な取組みが基本です。そして、個々の取組みの統合・総合化する際に、編集力が必要となってきます。今回は、その原点を見抜く手法をお示しし、熊谷に当てはめて提案してみました。提案した10のテーマは、今後の地域をプロモートする際の“テーマ”にもなるものと思っています。

次回は、個々の取組みを統合・総合化し、まちづくりの力を結集する手法について解説したいと思います。

参考:下田 30COLORS PROJECT(下田市観光協会)

http://toms1.net/works/site-30colors.html

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2017年12月8日WEBYA Ltd.

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