〔第5回〕選択と集中によるまちづくり~この指とまれ方式による地域力の結集

平成28年度(株)まちづくり熊谷情報発信事業

 〔第5回〕

選択と集中によるまちづくり~この指とまれ方式による地域力の結集

帝京大学経済学部観光経営学科 大下 茂

  まちづくりや観光に共通していることは、様々な分野との関わりをもっていることです。そのため、得てして全方位的な取組みを展開しがちです。そのこと自体は、大切な取組み方のひとつの考え方ではあるのですが、「広く」「浅く」では、人々の心に伝わりません。前号で提案した「熊谷の10のテーマ」は、熊谷の魅力を“選択と集中”によってアピールするための試案の一つです。まさに現在のまちづくりや観光には、“選択”と“集中”の思考が求められているのです。

このことは実現に向けた取組み方にも言えます。かつてのまちづくりの中にあった「結いの心」こそが、いまの時代に活きてくるのです。組織は“縦社会”の「垂直力」であり、SNSは“横社会”の「水平力」というパワーを持ち合わせています。今回は、導き出された熊谷の新しいテーマを組み立てるため、また発信するために必要な地域力をどのように結集するかの技をテーマにしたいと思います。

(1) [公共]vs[]の対立構造から、皆なで育てる『共』の復活

公共団体、公共料金、公共事業、公共性等、現在では「公共」という言葉を日常的に使っています。では、公共と対局の言葉は何でしょうか。様々な解釈はあると思いますが、公共を“Public”とすると、その一つが“Private”すなわち「私」となります。【公共】vs【私】の構図となるのです。

夏になると前の通りに打ち水をする習慣があります。科学的な効果は別として、少なくとも通りを歩く人々に対する配慮は感じられます。また、農村地域では“水”は大切なもの。そのため皆で用水の管理をしています。通りや用水等を共通の財産と捉えていることの現れであると思われます。

イギリスでは、家の前の芝生を管理していないと隣人達が手入れをしてその費用を請求されると聞いたことがあります。またパリやドイツ等では、通りに面した窓やベランダに洗濯物を干すことは御法度、日本の布団を干す風習にびっくりするそうです。通りに面した空間は、あくまでも私的財産ではなく、みんなのための『共』の空間として認識されているのです。

では日本では、いつごろから【公共】vs【私】の構図が生まれたのでしょうか。浅学のため厳密な資料は把握していませんが、少なくとも戦前には『共』の考えは存在していました。例えば、淀屋橋は、江戸時代に米相場で財を成した淀屋さんが、町人達が願った橋を架けたことから「淀屋橋」と呼ばれるようになりました。同じく大阪の水族館の海遊館がある天保山は、国土地理院に認定されている山のひとつですが、舟運の確保のため天保年間に川ざらいをして堆積した砂を積み上げたことから名付けられた地形地名です。現在ならば行政の仕事と割り切って要求することを、皆で楽しみながら川ざらいをするとともに、それから百年以上の時を経た後に大阪の新名所となっているのです。

戦後の価値観が変わったことが契機となり、また高度経済成長によって、経済的合理主義をまちづくりに求めたことから、徐々に『共』の考え方が薄らいでいったものと考えられます。人口増が期待できない時代を迎え、公共空間の維持が困難になることが予想されたことから、「新たな公」という掛け声で『共』の復興を訴えていますが、単に財源が底をついたからという理由だけではなく、かつてのコミュニティの復活を含めた日本人の有する心意気としての『共』の復興が求められているもの考える方がよいと感じています。

道路空間のみならず、中心市街地は、「超・高齢化社会」における日常的な基盤機能の一つでもあります。また、商店街には、高齢者の見守り機能や子どもの教育機能等も兼ねていました。農村地域での「結いの心」は、薄らいできつつあるものの、依然として根づいています。身近なまちづくりや観光においては、「公共」から『共』に当たるものを見出し、それを皆で楽しみながら取組む時代、『共』の復興こそが、選択と集中が求められるこれからの時代の活動の場となるのです。

(2)集客・観光を軸とするまちづくりに求められる3つの思考と5つのスキル

集客・観光によるまちづくりを“選択と集中”の考え方をもって取組むにあたって、『共』の領域を見出し、コーディネートして展開していくことが必要です。しかも無理しながらではなく、楽しみながら…。そのための思考とスキル(技)についての極意を論じたいと思います。

①『共』を展開するための3つの思考
【魅せる化~既存イメージ・資源の磨きかけと共有化】
地域を牽引する力の源は、地域資源やアピールするテーマにあること、その見出し方や編集方法は、これまでの寄稿で述べた通りです。これまで気にも留めていなかったものや、別の視点から見直すことが、資源の磨きかけの思考として大切です。
そして、それでアピールしようとする“流れ”をつくり出すためには、観光や集客を軸とするまちづくり(以降「観光まちづくり」と称する)に関わる関係者が共有し、伝えたいと考えている人(観光・集客のターゲット)に伝わるように工夫を加えることに力を注ぐ必要があります。それが【魅せる化】の取組み思考です。

【儲ける化~事業の透明化・事業収益性の追求】
まちづくりはボランティア精神だけでは長続きはしません。『共』で取組む以上、取組みは透明であるとともに、次の原資となるものを残す必要があります。原資には、経験則、仲間意識や共感性の獲得、さらには収益等、次の取組みに活かすことができる様々なものが含まれます。

その中でも、やはり収益性は重要です。しかし、ただ収益性を追求することだけに執着することは、逆の効果を生むことになります。透明性を確保する中で、受動的ではなく主体的に収益性を求める思考をもつことが大切です。
全国的なまちづくりの領域では、徐々にボランティア精神依存からの脱却に向かってきています。まさにそれを“磁力”として捉えて事業収益性を求めることが望まれているのです。それが【儲ける化】の取組み思考です。

【続ける化~仲間づくりと関心喚起の追求】
最後は、その取組みを一度限りの取組みに終わらせずに、改善を講じて長く取組みつづけることへの意識をもつことです。まちづくりは、効果がすぐに現れるものではありません。【続ける化】が大切です。

まちづくりが失速するには、いくつかの共通性があります。第一に活動内容のマンネリ化やメンバーの固定化によって刺激がなくなること。第二に当初のワクワク感が薄れて徐々に義務化・ルーチン化すること。第三に、特定の人材に集中することによる疲労感、公平性がなくなり、結果としてねたみ・そねみ・やっかみが目に見えないところに進行し他力本願的な思考に陥ること。

これらの状況が垣間見られたら“赤信号”。続ける力は、【魅せる化】×【儲ける化】を意識した活動を続ける中で、“自らが楽しんでいる様子”をみせて、仲間を惹きこむとともに関心を向けさせるように努めることが大切です。

【まちづくりの左手の法則】
『共』を展開するための3つの思考は、中学校で学んだ「フレミングの左手の法則」と、どこか似ています。
【魅せる化】は中指の電流、【儲ける化】は人差し指の磁界、その中で【続ける化】の力が生み出されてきます。まちづくりの現場は、磁場内において(協働が定着しつつある環境の中で)、電流が流れること(地域の潜在的魅力・テーマの共有化に向けての流れが生じること)で、流れる導体に力(まちづくりを続けようとする力)が発生する現象に通じるものがあると感じられます。

(2)『共』をコーディネートするために備えておきたい5つのスキル
観光まちづくりをコーディネートするためには、どのようなスキル(技術)を備えておくことが望まれるのでしょうか。それは、①企画する力・発想する力、②聞きだす力・調整する力、③組み立てる力・構想する力。④情報収集する力・情報発信する力、⑤実践する力の5つのスキルです。

①企画する力・発想する力
地域の資源に光をあてるには、多くの人が見落としてしますようなものに着目すること、これからの時代を予見してブームを先取りすること等、多くの人と異なった視点や発想力が必要です。言い換えれば、着想・発想として、努めて「天邪鬼」な見方ができるようにするのです。これはあくまでも発想法としての「天邪鬼」であって、頭の中で考えるだけです。「天邪鬼」な行動をすると、他人から「へんなヤツ」と思われたり、距離を置かれるので要注意です。
『共』による観光まちづくりには、多くの関係者の思惑や志向性の違いがあります。その中で共通項を見出しつつ、将来の姿に近づけるために「企てる力」が必要となってきます。

②聞きだす力・調整する力
関係者が納得できる「企て」のためには、観光まちづくりの関係者の心の声を「聞き出し」、そして「聞き置き」「聞きとめる」といった「聞く力」が必要です。コーディネートする多くの時間は、説得のための話に時間を割くのではなく、関係者の心に近づき、気持ちを汲みつつ、共通してイメージしている将来の姿に向けての細部の調整に労力を使うことを惜しまないことが大切です。

③組み立てる力・構想する力
次は、観光まちづくりの関係者から得た思いや願いをもとに「共通するもの」を原点に置き、将来につながるプロセスを組立て、構想するのです。男児ならば子供の時に必ず体験したプラモデルやシグソーパズルをイメージすると理解しやすい。最終的な形を頭に浮かべつつ、パーツを組み立てていく。そのパーツを組立て、全体像が形づくられていくのです。
小さなパールやジグソーパズルのピースがひとつ欠けても、目標とした最終形にはなりません。一つ一つの小さな意見・考えも大切にして組立・構想したいものです。

④情報収集する力・情報発信する力
組立・構想する一方で、それをどのように見せたいか、誰に伝えたいか、その背景にある知識も一緒に伝えるともっと奥が深くなるな~といた具合に、情報の収集と発信を考えておくことも大切です。
観光まちづくりでは、情報発信にばかり気が向きがちですが、実は、情報発信と同じくらいに情報収集も重要です。現在は多くの情報が飛び交っている時代です。そのような時代において「感度の高い情報発信」は、地域ならではの情報が日々、更新され続けていることが大切であり、そのためには、地域外や仲間からの「信頼できる地域情報」を収集する手法を持ち合わせておくことが効果的となります。

⑤実践する力
「発想(見出し)」「企て」「聞き出し」「調整し」「構想し」「組立て」に至った観光まちづくりプランを、最後は、「実践する」ことです。絵に書いた餅に終わらせないことです。実践の極意こそが“選択と集中”にあります。多くのアイディアの中から、先導する可能性のある取組み、共感を得られそうな取組み等を見出すことです。最初から大きな取組みに正面からぶつかるのではなく、まずは成功体験を積み重ねることに着実に取組むことも効果的です。
そして何よりも大切なことは、“自らが楽しむこと”にある。義務感で観光まちづくりに取組むのではなく、ワクワク感のあることへの取組みこそが、長続きの秘訣です。

(3)熊谷の地域活力向上の地域力を結集するために
まちなかの活性化を進めるためには、関係者の合意形成が必要であることから、まちなかでの様々な組織の代表者が集まって会議を開催し、その中で計画をつくることが一般的な取組み手法です。しかし、最近は、「シンボルプロジェクト」あるいは「リーディングプロジェクト」と呼ばれる複合的なプロジェクトを組み立て、先導的・明示的に事業展開を図ることで、まちづくりの動きをアピール展開するケースも見られるようになってきました。その際に共通している「動かしのための極意」は、これまで観光まちづくりに関わりの無かった方々の登用です。それをいくつかの事例から見てみましょう。

①住職・花柳界との連携によるみなと町再生(千葉県木更津の取組み)
アクアラインの千葉県側の玄関口の木更津は、江戸時代に東京湾に入る舟運の寄港地として多くの富を得た地域でした。しかし、近年では地域活力が流出し、かつて賑わいのあった商店街がシャッター通りとなったことから中心市街地の活性化が喫緊の課題となっていました。これまでも様々な構想・計画づくりに取り組んではきていましたが、なかなか実現には至らなかったのです。その原因を考えてみて気づいたことは、組織の長が会議に参加されており、検討メンバーが固定化していることでした。
まちづくりは市民感覚で、かつ何か実効性のある事業を一点突破でもよいので進めることで、まちづくりの流れをつくることが求められていると考え、これまでの検討に関わりの無かった方々を招くことを企画。中心市街地内のお寺さんの住職、花柳界のお姉さん方、そして観光協会、商工会議所、市役所の企画部署のメンバーが加わったワーキングチームをつくり、みなと町再生に取り組みました。

②商家の女将さんによる体験プログラムの創出(千葉県香取市佐原)
千葉県の佐原でも同様に、観光まちづくりを進めるにあたって、これまでまちづくりに関わりの薄かった商家の女将さん方に集まっていただき、まちづくりの勉強会から初めて「まちぐるみ博物館」という観光商品を創出することになりました。この佐原の取組は思いつきではなく、地域が活況を得ていた江戸の中後期には旦那衆は、江戸市中の支店に常駐、佐原のまちなかは女将たちが仕切っていたことにヒントを得た取組みでした。商家の伝統的な道具類等を店に展示して、まちなかを観光客に巡っていただく「まちぐるみ博物館」の他、「着物でまち歩き」という体験プログラムも女性陣が企画・実践したものです。男性の考えるまちづくりは、多額の投資が必要となるものが多く、実現までは時間と費用が掛かるのに対して、女性の考えるまちづくりは現実的なものが多いのも特徴です。

③住民・就業者・学生で企画した地域イメージの発信・展開(東京都北区)
東京都北区の田端周辺のまちづくり協議会では、地域住民だけでなく、そこで働く方々、地域の専門学校で学ぶ学生等が加わった活動として展開されました。田端には、新幹線の車庫の他、線路際を歩いていくと近くに尾久の車庫もあります。また、まちなかには、鉄道等に関連して機工街の趣きも残っており、「鉄道のまちづくり~東田端レールパーク構想」をアピール・実践することが企画されました。その一貫として「駅弁コンテスト」や「ぽっぽ祭り」の開催等。特に女性陣や子ども達に興味・関心を惹こうと考えたイベントを企画を実施することで、特徴あるまちづくり活動をアピールするとともに、仲間づくりを広げることも意図した取組みでした。

④小・中学生からの観光まちづくりへの関心づくり(東京都墨田区)
スカイツリーによる集客効果と外国人観光客に人気のある浅草の対岸の墨田区では、小学生や中学生が、地域の小中学校の協力も得つつ、総合学習の延長として、地域観光の企画・提案に関わるプログラムを展開しています。
観光まちづくりは、一朝一夕に定着するものではありません。これは、小・中学生から地元を知ること始め、地元愛の醸成とまちづくりへの関心を高めようとする取組みです。とくに、事業に参加した子ども達が、口コミによって同年代の子どもたちに水平展開することで、墨田区観光のサポーターとして育ってくれることを願った「ひとづくり」の取組みの一つと位置づけられる取組みです。

(4)熊谷での取組みの萌芽
熊谷では地元大学と連携した新しい取組みも展開されつつあります。祭りの山車の位置情報を発信するプロジェクトは、うちわ祭りの楽しみ方をさらに深める効果を生むものと思われます。
また、中心市街地では、通称「くまチャレ」と呼ばれている大学生が、様々な企画を考え実践しようとしています。熊谷出身の大学生、熊谷で学んでいる大学生から構成される中心市街地の活性化を考えるグループに、先日、筆者のゼミの学生が訪問し、「星川通りの賑わいづくりのために」をテーマにしたワークショップ手法による意見交換の場が設けられました。詳細は、別途「学生コラボワークショップ」に記載されていますので、ご覧いただければと思います。http://www.machi-dukurikumagaya.com/page-4752/
若者たちのアイディアは、思った以上に多岐に亘っていました。スポーツツーリズムや飲食店のタイムシェアリングによる活用等、若者にでもできる取組みが一投石となり、観光まちづくり活動への波紋が広がる可能性を感じました。若者たちの荒削りではあるが展開可能性のあるアイディアの実現化に向けて、まちづくり関係者が磨きかけに加わることが、熊谷のまちなかの賑わいづくりにつながるとの確信を得た一日でした。
着想・発想は、ある意味では誰でもが関わることのできる段階です。むしろ、若者や子ども達、女性の感性等、日常的にまちづくりに関わりのない方々の方が、既成概念にとらわれない自由な着想・発想が可能なのかもしれません。これを形にするのは、行政やまちなかの活性化をつかさどる商工会議所・観光協会等の専門組織の役割分担となります。
そしてそれをつなぎとめる役割も必要です。自由な発想を次々と見出すプラットフォーム的な役割と、この指とまれ方式によって仲間を広げることこそが、選択と集中によるまちづくりに求められる最も大切な機能です。まちづくり熊谷も、その役割を担うことが期待されているのではないでしょうか。

次号でいよいよ最終回の寄稿となります。最終回では、これまでの取材によって得られた様々な情報をもとに、総括として、まちなかの活力向上に向けたグランドデザインの骨格(スケルトン)を描いて見たいと思います。